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鳥の窃視を笑うな
慶應義塾大学文学部 准教授
平石 界
(ひらいし かい)
Profile—平石 界
東京大学大学院総合文化研究
科博士課程退学。東京大学,京
都大学,安田女子大学を経て,
2015年4月より現職。博士(学
術)。専門は進化心理学。
「なんで喧嘩なんかしたんだ。親御さんの下
を離れてからずっと,一緒にやってきた友だち
じゃなかったのか」「だって……」「だって,な
んだ」「あいつが僕を押しのけたんだ。ジョシ
アナを見ようとして」「女子アナ? なんだお
前ら,そんなことで喧嘩したのか。呆れた。だ
いたいそれなら喧嘩なんかしてないで,野球に
でも打ち込んだほうがいいんじゃないか」「ち
がいますよ。ジョシアナですよ。小さいんだ。
二人で一緒に見ることなんかできないんだ。ど
うしても見たかったんだ。でもあいつが邪魔し
たんだ!」「よく分からんが,だからって喧嘩
することはないだろう。順番に見るとか」「そ
んなこと,ちゃんとあいつにも言っているんで
しょうね。たしかに今回は僕が先に手を出しま
したよ。でも,あいつが先だったことだって,
おんなじくらいあった(p > .05)。お互い様
のはずです。ちゃんと報告書(de Boer, et al.
2018)は読んでくれたんですか」「おお,報告
書。どれどれ」
「……なんだお前,ジョシアナって,女子穴
か。え,なに,お前ら,隣の女子をのぞく穴の
ために喧嘩したの。えええ」「そういうの,や
めてもらえませんか。確かにあなたのような人
からすれば,女子をのぞき見しようと喧嘩する
僕らは馬鹿に見えるかもしれません。鳥ですけ
ど。でもね,僕らだって必死なんです。特に僕
みたいな,両親の兄妹婚で生まれた子っての
は,カナリアの世界では悲惨なんです。死亡率
だって高いし,寿命だって短い。異性にもモテ
ないし」「え,ちょっ」「僕だってね,必死にが
んばってきましたよ。歌だって一生懸命,勉強
した。レパートリーでも,声の大きさでも,他
のやつらに負けてない(ps > .05)。それでも
ね,人は無責任に,兄妹婚の子の歌は調子っぱ
ずれだっていうんです。そんなことを女王陛下
の雑誌で全世界に向けて発信されちゃったら
(de Boer et a., 2016),僕らはどうすりゃいい
んですか」「えっと,そのだな」「せっかく女子
といい感じになったとしてもね,僕らみたいな
のが相手だと微妙に小さい卵を産むんですよ。
酷くないですか? それでも必死にやってるん
だ!」
「き,君の事情は分かった。でも,ほら,女
子にモテたいなら,もっと別なやり方もある
んじゃないか。イクメン方向でアピールする
とか。野生環境では両親そろって子育てする
ことが,子供のために大事だそうじゃないか」
「僕は正真正銘の温室育ちです! それにあな
たが言っているのはハタネズミの話でしょう
(Lucia-Simmons & Keane, 2015)。あんな,哺
乳類の話なんて。それにハタネズミだってね,
兄妹婚生まれじゃない男は,妻子を放ってどっ
か行っちゃっても,あんまり問題がなかったん
だ。でも僕らは子育てをがんばらないと不利に
なる。その上ね,兄妹婚生まれの男を夫に持っ
た女子は,浮気をしている確率も高かったんで
すよ! 逆にシデムシの女子は,相手が兄妹婚
出身だってなると,過剰に子育てがんばるって
噂もあって,それはそれで夫を信頼してないっ
て こ と じ ゃ な い で す か(Mattey & Smiseth,
2015)。悲しいですよね。鳥を馬鹿にするのも
大概にしてほしいです。涙が出てきて,もう嗤
うしかないですよ」
「……。あなたたちもね。あなたたちのせい
で数が減って,近親婚せざるを得ない動物がた
くさん出てきているんでしょう。こんなところ
で鳥の喧嘩に口出ししている暇があったら,僕
らみたいな生い立ちの者からちゃんと学んで,
そういう動物のために何か考えたらどうなんで
すか」「なんか,ほんと,すみません」